ヴァラエティ番組「ファミリーヒストリー」でセレブリティの家系を調査
NHKのヴァラエティ番組「ファミリーヒストリー」について取り上げる。この番組は、セレブリティの戸籍や先祖の人別帖などを元に、先祖の居住先などで取材を行うものだという。2008年に不定期に放送されるようになったというから、かなりの長寿番組だ。ドキュメンタリ番組とも紹介されているが、その名に値しないと考える。NHKのウェブサイトでは以下のように紹介されている。
著名人の家族の歴史を本人に代わって徹底取材。「アイデンティティ」、「家族の絆」を見つめる番組。初めて明らかになる事実に、驚きあり、感動ありのドキュメントです。
ルポライターの鎌田慧さんは、二世や三世の政治家が国政を恣にしていると憂い、戦後身分制度を解体したはずなのに現存している現状を差別に無頓着な社会だと批判している。また、コラムニストの高堀冬彦さんは、かつて週刊朝日が政治家の出自を問題にしようとして批判されたことなどを引き合いにして、血縁の重視や不当な差別という日本の因習を助長する恐れがあるとしている。
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どうして家系がアイデンティティになるのか
個人として自分の先祖の事績を知りたいという感情は分からなくもない。家系図作りが静かなブームになっているという事情もある。しかし、それはあくまでも個人としてだ。
個人の家系を他人が知りたいと思った瞬間に、社会的因習の罠に引っかかってしまう。鎌田さんが言うように、「貴あれば賤あり」だ。
そもそも、NHKが言う家族の歴史を調査することによって分かるアイデンティティとは何なのか。優れた事績を残した人を先祖に持つ人は、優れた事績を残しても不思議ではないとでも言いたいのか。また、仮に室町時代中期に優れた事績を残した人を先祖に持つ人がいたとして、その人はその先祖のDNAを100万(2000−1400=600、1世代を30年とすると600/30=20、2の20乗≒10の6乗=100万)分の1しか受け継いでいないということになってしまうのを理解しているのであろうか。NHKには、説明を願いたいものだ。
自分の出自をひけらかす人がいると、俗物根性だとして相手にされないであろう。それなのに、他人、それも公共の電波によって紹介されると、良質のドキュメンタリのような仕上がりになってしまうことにも考えさせられる。
日本では、多くの報道機関が「名家」のうち特定の子孫を未だに「当主」という言葉を遣って紹介する。早くそのような風潮に終止符を打つために何をするべきなのか、NHKにはよくよく考えてもらいたいものだ。
(2021年1月9日執筆、2021年11月20日更新、2024年8月5日掲載)
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