検査数を限定する非正攻法
新型コロナウイルス感染症について、日本における感染の有無の検査が過小だという指摘は当初から存在する。検査能力が限定されている上に、その検査能力が生かされていないという問題もある。加藤勝信厚生労働大臣も、その実態解明のために悩まされてきた。
ところが、4月10日、以下のような報道があった。
新型コロナウイルス感染の有無を調べるPCR検査が、さいたま市では2カ月で171件にとどまったことについて、同市の西田道弘保健所長は10日、記者団の取材に「病院があふれるのが嫌で(検査対象の選定を)厳しめにやっていた」と明らかにした。
さいたま市は2月に検査を開始し、今月9日までに171件。同市より人口、感染者ともに少ない千葉市は同日時点で4倍以上の700件を超えた。
西田氏は軽症や無症状の患者で病床が埋まるのを懸念したと説明。「検査を広げるだけでは、必要がないのに入院せざるを得ない人を増やすことになる」と述べ、ホテルなど滞在先施設の確保が必要だと強調した。
(中略)
検査数を巡っては、清水勇人市長が9日の記者会見で「必ずしも十分ではなく増やしたい」と話していた。
検査数の限定という重要な問題を、保健所長が勝手に決めてよいのか。しかも、「病院があふれるのが嫌」とか「厳しめにやっていた」とか、何様なのであろうと思う。検査の目安は「37.5℃以上の発熱が4日間」で医師が必要と認めたものと決まっているのではなかったのだろうか。西田さんには、それをどのように厳しく運用していたのか、説明責任があると思う。また、このような大事な決定をした理由を、個人的感情である「嫌」という言葉でしか説明することができないようでは、保健所長としての資質はないであろう。軽症者をどのように扱うかというのは、別途検討するべき問題だ。しかも、清水市長が検査数を増やしたいとの意向を表明しているのに、その問題を指摘するとは何事だ。
日本の累計感染者数は6,000人を超え、オウバーシュートの危機にある。検査を受けられないため、治療も受けられず死の淵をさまよった人や、感染を知らずに市街を歩き回って感染源になってしまう人がいる。現在、日本では、大企業では37.5℃以上の発熱があれば休暇を取るようにという指示がなされているかもしれないが、多くの勤め人が多少の体調の変化では休暇を取ることができないという状況に置かれているのではないだろうか。
アメリカ合衆国は、検査数の過小を指摘して先が見通せないとして自国民に日本からの退避勧告を行った。累計感染者数が50万人に上っている国からそのような勧告を行われて、恥ずかしいことだと認識してほしい。そして、方針転換を図ってもらいたい。
検査数を抑えているのが誰の判断なのかはともかく、感染症法に基づいて軽症者や無症状者を必ず入院させなければならないという固定観念が邪魔をして、検査数の増大に踏み切ることができなかったのだとしたら、木を見て森を見ずであったと言うほかない。また、検査数の増大に反対しているのは、右派寄りの人が多いように思うが、どうであろうか。
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緊急事態宣言を受けた休業要請
待ちに待った緊急事態宣言がようやく発出された。安倍総理大臣や新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長の尾身茂さんによると、人と人の接触を70〜80%減らすと新規感染者数が減少に向かうとのことだが、危機意識に欠ける国民の行動を見ると、容易なことではないであろう。
そこで必要になるのが、都道府県による休業要請だ。ところが、ここで問題が起こった。東京都が居酒屋、百貨店、ホウム・センター、理髪店などを含めて休業要請を行おうとしたところ、経済活動への影響を理由に国が難色を示したのだ。また、小池百合子東京都知事がイニシアティヴを発揮しなければ、先に都道府県が宣言に基づく外出自粛要請を行い、その効果を見極めた上で休業要請を行うという国の構想に基づいて進むところであった。国は、事態が一刻の猶予もないということを認識しているのであろうか。福岡県では美容業でクラスター(感染者集団)が発生したとされているが、東京都の休業要請の対象から理髪店を外したことは適当であったのであろうか。厳しい規制を行うと、経済的に厳しい状況に置かれることは承知の上だ。緩やかな規制を行っていても、新規感染者数は急速には減っていかない。より長期間の規制が必要になり、消耗戦になるだけではないだろうか。短期的には非常に辛い措置であっても、厳しい規制を行って感染を一気に抑え込むのがこのような場合の常道のはずだ。国の構想は戦力の逐次投入としてガダルカナルの戦いになぞらえられている。この間の動きには大いに失望させられる。
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緊急事態宣言を有効ならしめるために
保健所が人員制約のため、十分に機能を果たせなくなりそうだという話を聞いた。ほかの官庁や需要の減退した企業から大幅な支援員の派遣を考えるべきではないだろうか。
また、パチンコなどをするために、緊急事態宣言の対象である7都府県から近隣県に越境する人がいるという。これが日本の現状かと落胆させられる。もはや、7都府県に限らず、全国一斉に緊急事態宣言を発出しなければならないのではないかと思う。並行して、外出規制に強制力を持たせる法改正も考えるべきではないだろうか。当面の間、強制力を持たせることができないのであれば、安倍総理大臣や各都道府県知事がより一層の切迫感を持って、また悲観的な観測を交えながら、国民に行動の変容を訴えていくことが必要であろう。
オーストラリアが無作為抽出による検査の実施によって新規感染者数を推計したそうだ。日本でも考えられないであろうか。
(2020年4月12日執筆、2020年4月16日更新、2024年8月5日掲載)
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