問題山積の中国
新型コロナウイルス感染症が全世界に衝撃を与えている。
震源地は中国の武漢であり、武漢華南海鮮卸売市場で扱われていた生きた野生動物が感染源ではないかとされている。コウモリが最も怪しいようだ。珍味を愛でるとされる中国人だが、食文化が甚大な感染症の流行を引き起こすとなると事は重大だ。2002年に広東省で始まったSARSもコウモリが感染源のようだ。SARS感染拡大後、当局は生きた動物の販売を禁止したそうだが、その後、解禁になったという。今度こそ恒久的に販売を禁止してほしい。
また、SARS感染拡大時に次いで、中国が当初情報を迅速に開示しようとしなかったことも強く非難されるべきだ。武漢では、病院が治療の場ではなく感染の場となってしまっているという問題もある。過去の教訓が全く生かされていない。
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日本の問題
日本でも、感染が拡大している。3月上旬時点で大規模な感染が起こっているという状況ではないが、感染経路不明の感染が起こっていることは気がかりだ。発症していない感染者に感染力があり、封じ込めは容易ではない。
中国で感染拡大した判明した春節(旧暦の正月)時、アメリカ合衆国などは中国人の入国を禁止する措置を採ったが日本は見送った。これが、日本とアメリカ合衆国で、感染者数が1桁違う結果になったと考えられる。
日本が検疫上の理由から横浜港に留め置いたダイアモンド・プリンセス号についてはどうであろうか。結果的に乗客の入帰国が認められるまでに数百人が感染したほか、入帰国後、隔離していなかった乗客から多くの感染者が見つかった。隔離が十分に行われない船内に多くの人を留め置いたことは、感染発生時に最も行ってはならない対応であったと評する識者もいる。
2月27日には、全国の小学校、中学校、高等学校の一斉休校が急に決まった。それについての是非が問われている。子供は元々感染の危険性が低い、休校によって市街に繰り出す子供が増えているなどの意見が出ている。
斬新な措置を採った一方で、感染の有無を調べるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査が1日数百人に留まっており、検査を受けたくても受けられないいわゆる検査難民を発生させているという問題がある。現在、検査能力は1日約4,000人だとされているが、検査能力が全く生かされておらず、その理由は説明されていない。発熱が4日間続いた場合に帰国者・接触者相談センターに連絡することとされている条件が影響しているのであろう。その検査能力も、1日1万人を上回る検査を行っている韓国と比べて見劣りしている。感染拡大の防止のために、外出により他人に感染させる可能性の高い軽症者を検査することの必要性も指摘されている。
また、複数の医療従事者が、症状の発生後、解熱剤を服用しながら診察に従事したり、不特定多数が集まる閉鎖空間に出かけたりしたことが伝えられている。専門家なのだから、もっと高い危機管理意識やモラルを持つべきであろう。
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現状分析と今後の展望
当初、ウイルスの危険性について説明する際、一人の感染者から何人が感染するかという感染力と、致死率が用いられた。そのうち、感染力の定義に疑問を感じた。一人の感染者から何人が感染するかということは、どの程度の濃厚接触があったかによっていくらでも変わり得るものであり、また何人かの感染があればそれ以上の感染が起こらないというものではないためだ。専門家は、もっと工夫して説明することが必要ではないだろうか。
政府は、感染拡大のスピードを抑え、感染が医療対応の限界を超えないようにすることに意を注いでいる。そのことは重要だと思う。一方で気になることもあった。感染拡大のスピードを抑える措置の必要性を説明するために作成した図で、感染が医療対応の限界を超えて急速に拡大した場合の方が、感染拡大のスピードを抑えることに成功し場合よりも感染が早く終息するように描かれていたことだ。感染拡大のスピードを抑えることが、「感染拡大を遅らせる」という言葉でも説明されており、それを図示したものであろうが、パンデミック(大規模な感染拡大)を迎えた方が早く問題が解決するとも捉えられかねない。パンデミックが終息する過程も説明されていない。TBS系の昼の情報番組「ひるおび!」でも司会の恵俊彰さんが疑問を呈していたが、専門家に一蹴されていた。しかし、たとえば14世紀に発生したペスト(黒死病)では数十年間に世界で約1億人が死亡し、うちヨーロッパでは人口の半数程度が死亡しており、第一次世界大戦中に発生したスペイン風邪では2年間にわたって世界で数千万人から1億人が死亡している。前者の例では、生存しているほとんどの人が感染を経験し、抗体を持つという状況になって、ようやくパンデミックが終息したのかもしれない。そのような状態になる前に、感染が一定程度拡大した後は自然に終息に向かうと捉えられかねない説明は、楽観的すぎると思う。
ほかにも、経済や雇用に及ぼす影響に加え、東京オリンピック、NPB、Jリーグを含むスポーツ興行の開催の是非など、問題は山積している。3月上旬時点で最も悲観的な観測は、今後1年間にわたって世界でほとんどの人が新型コロナウイルスに感染するというものだ。その場合、日本で数十万人、世界で数千万人が死亡するということになるのであろうか。再感染または再燃の事例も見られるため、その後、季節性インフルエンザと同じような存在になっていくのかもしれない。どのような事態になっても、新型コロナウイルス感染症に対して冷静に対処していく必要があろう。
(2020年3月8日執筆、2024年8月5日掲載)
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