65歳から95歳までに2,000万円が不足と指摘
金融庁の金融審議会の報告書が波紋を広げている。正確には審議会の市場ワーキング・グループが公表したものだ。65歳から年金支給が開始されるが、平均的な世帯で1か月約5万5,000円の赤字になっているため、95歳まで生きるとすると30年間で約2,000万円が不足するというものだ。
これまで与党は公明党を中心に年金制度を100年安心と謳っていたため、与党の喧伝は間違っていたと野党が国会で攻撃する状況となっている。
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赤字をどのように解釈するか
平均的な世帯で1か月約5万5,000円の赤字になっているという事実をどのように解釈するべきであろうか。
与党は、これはあくまでも平均的な数字であり、すべての世帯に当てはまるものではないと説明している。一部の富裕層の資産取り崩しが平均を押し上げているということを言いたいのであろうが、あまり詳しく説明すると資産格差の問題が如実になり、両刃の剣なのであろう。
公明党のウェブサイトには次のような説明も掲載されている。「一般的に高年齢者世帯の家計は、公的年金を柱に、貯蓄、退職金といった金融資産の活用や就労などにより賄われています。」経済学的には、高年齢者が引退時に保有している資産の利用目的は主に2つある。第1は死亡するまでの生活を豊かにするための消費であり、第2は子孫への相続だ。ほかに公共目的のための寄付などもあるが、捨象しておこう。そして、純経済学的には第1の目的が強調される。すなわち、世帯が1か月5万5,000円の赤字に陥っているのではなく、効用を高めるために積極的に資産を取り崩しているという解釈が主流であろう。
仮に、経済情勢が大きく変わり、将来の増税を伴うことなく65歳以降に受け取る年金が1か月5万5,000円増えたと仮定しよう。その場合でも、高年齢者世帯はおそらく1か月3〜5万円の資産を取り崩すのではないかと思う。自らの効用を高めるためには、消費に限界などないのだ。
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与野党に望むこと
年金問題に関して与野党に望むことは、世間受けを狙ったパフォーマンスを行わないでもらいたいということだ。100年安心というわけでもないし、破綻しているというわけでもない。もっと地に足の付いた議論を期待したいものだ。
(2019年8月10日執筆、2024年8月5日掲載)
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