西日本新聞の「こだま」への読者投稿
先月、西日本新聞の読者投稿欄「こだま」に、飲酒運転についての投稿が掲載された。飲酒運転の危険性を主張するというよりも、禁酒したため結果として飲酒運転をすることがなくなったという内容であった。また、飲酒運転の問題として、懲戒解雇の可能性があると記していた。飲酒運転による最悪の結果は交通事故死を引き起こすことだという認識は希薄なようであった。
同紙では、2年程度前にも同様の投稿が掲載されたことがあるように記憶している。禁酒という健康のための決断を自慢したいようであったが、飲酒運転という犯罪行為を行っていたことに対する反省は記されていなかった。他人の生命を奪ってしまう危険性を大幅に高める飲酒運転は、健康問題とは比べようもない重大な問題であり、禁酒したため結果として飲酒運転をすることがなくなってよかったというような問題ではないのに、著しくバランス感覚を欠いていると感じた。
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福岡という土地柄
西日本新聞の発行部数が最も多いのは福岡県だ。福岡県というと、2006年に福岡市職員が飲酒運転で会社員夫妻の自動車に追突して海に転落させ、その3児を死亡させたことにより、自動車運転死傷行為処罰法の危険運転致死傷罪と道路交通法の救護義務違反により懲役20年の有罪となった事件が記憶に新しい。そして、その後も福岡市職員によるものを含め福岡県における飲酒運転は後を絶たないように思う。2012年には福岡市職員に対する禁酒令も発出された。
ところで、福岡県では、交通事故の防止対策として、3年程度前から歩車分離信号の普及に取り組んでいるようだ。交差する歩行者と自動車が同時に交差点に進入しないようにすることを意図したものだ。歩行者にとって青信号となる時間が短くなる歩車分離信号は、それ自体、自動車優先の制度のように思われるが、福岡県では運用面でも問題がある。
第1に、交通量の多い大規模の交差点の中には、歩行者が対角線上に横断することのできるスクランブル交差点になっているものの、赤信号になった後に交差点に進入した右左折車が交差点内で停車することが多く、歩行者の横断を妨げているものがある。その中にはタクシーも多く、業界団体を通じて簡単に指導することができるはずなのにと思う。第2に、中規模の交差点の中には、スクランブル交差点になっておらず、足の遅い歩行者には1回の青信号で対角線上の先まで渡り切ることが難しいものがある。第3に、交通量の少ない小規模の交差点では、歩車分離信号を導入した意味が不明だ。
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歩行者に優しい環境づくりを!
福岡県では、と言うよりも西日本ではと言うべきかもしれないが、もっと歩行者に優しい環境づくりを考えるべきであろう。西日本新聞は、飲酒運転の危険性を十分に認識しておらず文意が不明な読者投稿を安易に掲載するべきではなかったと思う。また、福岡県には、歩行者に犠牲を強いる制度を導入する以上、的確な運用を心掛けてもらいたい。
飲酒運転の危険性に鈍感で弱者に優しくない社会は、とても成熟した社会と言うことはできず、魅力的な生活の場ではないと考えているところだ。
(2015年8月5日執筆、2021年4月19日更新、2024年8月5日掲載)
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