次期衆議院議員選挙はマニフェスト選挙になりそうだという。マニフェストとは、各政党が政権を獲得した際に実行する政策を公約するものだ。政策本位の選挙になることは願ってもないことだ。
各党のマニフェストはまだ出揃っていないが、注目を集めているのが民主党が打ち出した高速道路の通行料金無料化だ。財源としては自動車保有税の新設などが検討されているという。
東京新聞(8月7日付ウェブサイト)は、マニフェスト選挙に対する期待を表明しているが、その中で以下のように記している。
料金収入の代わりの財源としては自動車保有税の新設などを検討している。つまり高速道路をよく利用する業種の人や、週末は必ずドライブに出かける家庭には得だが、「自動車に乗るのは近くの買い物だけ」という主婦には増税となる。
自分にとって得か損かがはっきりするという点で、この政策は、マニフェストの特徴を有権者に周知する役割を果たしそうだ。
これを読んで、東京新聞の識見のなさに落胆した。選挙において有権者が自分にとって得か損かを判断しながら投票を行うことはある程度まではやむを得ないことだと思う。しかし、目先の利益を追い求めるということはいかがであろうか。週末は必ずドライヴに出かけている家庭は、数年後には別の趣味を持つようになるかもしれない。「自動車に乗るのは近くの買い物だけ」というホウムメイカー(主婦や主夫)は、数年後には子供が週末は必ずドライヴに出かけるようになるかもしれない。目先の利益は常に変化するものだ。しかし、民主党が打ち出した高速道路の通行料金無料化は道路公団の廃止を伴うもので、永続的なものだ。目先の利益が変化したからと言って政策を元に戻すことはできない。
有権者が判断しなければならないことは、東京新聞が例示したような単純なことではないであろう。
有権者が判断しなければならないことは、割高な通行料金のために十分に活用されていない高速道路を活用することによって地域間の連携を強化することが地方経済の活性化のために必要なことなのか、あるいは環境の保全のためには高速道路の活用によって地域間の連携を強化するよりもある程度地域内で完結するような経済を志向するべきなのかというようなことではないのだろうか。(民主党の政策案に対する自由民主党の見解については詳しく知らない。道路公団の廃止に対しては反対勢力が多いであろうが、それだけでは民主党の政策案に反対する理由として不十分であり、早急に反対理由をまとめる必要があるのではないかと考える。)
マニフェスト選挙に際して判断するべきことが目先の利益であれば、利権政治と大きく変わることにはならない。選挙の争点にするべきことは国家の将来像、中央と地方のそれぞれに期待される役割、国民が豊かに暮らしていけるようにするために国際競争力を向上させるための経済政策などではないだろうか。そして、世論形成に対して大きな役割を担うマスメディアに期待されるのは、目先の利益に関心が向かいがちな国民に対して、選挙のあるべき姿を指し示すことではないのだろうか。マスメディアが国民に迎合していては世論形成支援機関としての意味がない。東京新聞に反省を促したい。
(2003年8月25日掲載、2003年9月1日更新)
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