概要
海外旅行専門の添乗員であった岡崎大五が贈る「添乗員騒動記」、「添乗員奮戦記」、「添乗員狂騒曲」の三部作。角川文庫。
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総評
自由旅行と比べて、パッケイジ・トゥアーでは突発的な事件は起こりにくく、その旅ならではの経験をすることは難しいと考えがちだ。しかし、作者が添乗員を務めるトゥアーはそうではない。例を挙げてみよう。
- 南アフリカのヨハネスブルクでは、黒人居住区SOWETOを訪ね、スラムに踏み込む。
- マリでは、深夜のサハラ砂漠をランドクルーザーに乗って移動し、キャラヴァンに遭遇する。
- インドへは、バックパック旅行を敢行する。
トゥアー客には様々な性格や背景を持った人がおり、作者は次々と事件に巻き込まれる。行く手には修羅場が待ち構えており、読者は添乗員の苦労が手に取るように分かる。情景描写も鮮やかだ。自由旅行派の人には、このような世界もあったのかと新鮮に感じられるであろう。
難を言うと、中にはテーマが明確でない作品もある。たとえば、「おかしな二人」は、奇妙な夫妻関係を描写した前半と夫の病状悪化を描写した後半の関連性が薄い。また、「最後の家族旅行」は、ガイドとの恋愛感情を描写した前半と家族愛を描写した後半が全く別の物語になっている。これは、現実に起こったことを時系列的に書き下ろす旅行小説の限界なのかもしれない。しかし、このような難しい問題を克服することができるかどうかは、添乗員を卒業した作者が文筆家として成功するかどうかの鍵を握っているように思う。
(2004年3月16日掲載、2004年9月5日更新)
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